プロジェクト

キラキラ橘商店街のエリアリノベーション事業
第3弾 UN(アン)

東京都墨田区

東京都墨田区京島。 東京大空襲の被害が少なかったことで今なお大正、昭和初期の建物が残り、個人商店や町工場が混在している下町風情が残る場所です。 近年、建物の老朽化による災害時の危険性や、高齢化や継承者不足により店をたたむ人が増えている現状があります。 古い建物のオーナーは改修してまで賃貸する資金はなく 一方で、自分のお店を持ちたい若い人が、個性あるこの街に出店を希望しています。 本事業は、商店街の店舗減少を防ぎ、自分のお店を持ちたい若い人の育成により名物店を増やす取り組みです。

左:昔のキラキラ橘商店街 (写真提供:西村食品)  右:現在のキラキラ橘商店街

魅力ある街に必要なもの3つ

  • 1階がシャッターの訳(使える物件)
  • ニッチをつないで〝価値〟を発見する(何かやりたい人)
  • 想いとリスクを分有する( 両者をつなぐ仕組み)

1階がシャッターの訳

キラキラ橘商店街でも、ところどころシャッターを下す建物が見られます。駅前の大型スーパーに買い物客が流れている上に、経営者が高齢になり、後を継ぐ人もいないために、店舗スペースが利用されないまま放置されるケースが増えています。

閉店したスペースに新しい店舗が生まれるなら商店街の景観は維持されますが、必ずしも簡単ではありません。たとえば昔ながらの店舗は、2階の住居として使っていることも多く、1階のお店を他人に貸し出すのが難しい場合もあります。また、賃貸に出すための改修費用を負担できず、建売業者に古家付き借地権として売却するケースも後を絶ちません。結果、商店街のシャッター街化、あるいは住宅街化が少しずつ進んでいます。

商店街の風景は京島の大きな魅力です。その風景を守るためには、様々な人が一階スペースを店舗として利用できるようにする必要があります。商売を引退する建物所有者がいる一方、昔ながらの町並みに魅かれ、京島で店を開きたいと思う若い人もいます。町を歩いて見ると、時折若い店主が経営するお店もチラホラ。

商売を辞めたい、建物を手放したい人と、京島で商売を始めたい人をつなぐことで、新しい継承のかたちをつくれないか。今回の事業はそうした思いから始まりました。売られる前に店舗と連携することが商店街を残す鍵となります。

ニッチをつないで〝価値〟を発見する

空いている建物があっても入る店舗がなければ価値を見出すことはできません。そして古い建物はほとんどの場合改修をしなければならず、新しい建物に入るよりも初期費用が高くなることもあります。
現在、この場所でお店を営むUNの店主植松さん。
古い物件を探していた中で見つけたこの建物。どうやってこの建物と出会い、お店を始めたのかインタビューしました。

Q01. この建物はどのような経由で出会いましたか?

ニュージーランドに在住経験もあり、将来お店を開く時は、新しいものを使ってではなく、古いものを使ってしたいと思っていました。
友達に話していたら古い建物を直して使っている人がいると聞き、暇と梅爺株式会社の後藤大輝さんを紹介されました。後藤さん(※1)に街案内をしてもらっている時に、この建物が空いていることを知りました。

(※1)後藤大輝 暇と梅爺株式会社代表 墨田区京島地区を中心に20箇所の古い建物を改修、運営を行っている。

Q02.ここで始めた理由はありますか?

物件はここに限らず、日本橋や蔵前でも探していました。
この場所になったのは、エリア自体が他に比べて安い傾向にあること。店舗は週末しかやらないので、お客さんにはこの店をめがけて来てもらうことを考えると駅から遠くても良い。駅から遠くても、商店街の中にあることが、選ぶ時のポイントになりました。

Q03.始めるにあたって不安、困ったことはありましたか?

元々小料理屋だった頃の名残りで小上がりがあり、靴を脱いで入る内装になっていたため、自分がやりたいお店のイメージと重ならなかったことです。でも、とりあえずはスケルトンにして考えようと思いました。スケルトンにしてイメージできなかったらやめて現状復帰するしかない。
幸い、スケルトンにしてみると、イメージできるようになりました。
逆に助かったのは、改修中に友達が米屋さんで昔使われていた建具や、近所の屋根を張り替えた時に出てきた瓦、奈良にあった木の板を持ってきてくれたこと。それで床をつくったり、テーブルをつくったり。そうやって内装を整えることができました。

Before
After

想いとリスクを分有する

今回の事業は、墨田区京島地区で建物運営管理をしている暇と梅爺株式会社が売りに出ていた物件のポテンシャルに着目したことから始まりました。商店街に面していたため、他の人に買われて新築の住居が建つより、今の建物を活かして1階を店舗として使った方が良いのでは・・・そう考えたが、すぐに借り手が付かない物件の購入に銀行は融資を下ろしませんでした。想いはあっても、資金が伴わない状態に。
そこで半ばライフワーク的に京島のまちづくりに関わっているランドブレインのK氏に購入代行を相談。ゆくゆくは暇と梅爺株式会社がランドブレインから建物を買い戻すということで話がまとまりました。

町の価値を認めるアクターが協働して、それぞれが納得して引き受けられるリスクを分有することで、エリアの魅力を保つことができる。なかでも資金の融通は大きなリスクですが、商店街と物件の価値を理解する者同士が対面の信頼関係で結ばれていたことで今回のスキームが成立しました。借主が自ら傷んだ建物を修繕したため賃貸契約前に追加投資が不要だったことも、資金提供のハードルを下げることにつながりました。小さなハードルを一つ一つ乗りこえることで、街の魅力を担う物件を生み出すことができた一つの成功例です。

お店紹介

お茶とお出汁とワイン UN

営業日 | 金・土・日 17:00~22:00
金曜日 | ワインバー
土・日曜日 | ワインバー・コースあり
(予約制インスタグラムより)

場所 | 東京都墨田区京島2-25-3